SiAFラボでは、札幌という都市を特徴付ける、豊かな自然環境と高度な都市機能を、日常とは違った視点から見つめ直し、札幌ならではの「ものづくり」について考えることを目的とし、数々のR&Dプロジェクトを行ってきました。2020年、COVID-19 の感染拡大を受け、世界中で文化活動が停滞する中、SIAFラボとSCSARTSは新たな共同プロジェクトを立ち上げました。
現代社会を語るうえで欠かすことのできない「データ」にまつわるテクノロジーそのものと、それに関わる思想を背景に、北国の広大な自然を野外でのデータ収集を中心に据えたプロジェクトが、「Extreme Data Logger & Radical Visualization」です。
このプロジェクトは、大きく4つのセクションから成ります。
+ Development Section / ディヴェロップメント・セクション 極限環境でも使用可能、かつ市販のデバイスにはない固有の特徴を持ったデータロガーを設計制作します。 + Data Logging Section / データロギング・セクション そのデータロガーを、除雪車、気球、海中など、さまざまなメディアを用いて、過酷な自然環境の中で使用することで、大量のデータを取得します。 + Physicalization Section / フィジカリゼーション・セクション 取得した膨大なデータの実体化に関する実験と展示を行い、新たなデータ美学「The New Aesthetics of Data Logging」を探究します。 + Speculation Section / スペキュレーション・セクション ポストパンデミック時代における、都市や人間と自然の共生と、データロガーという自然とのインターフェイスを用いた、新たな芸術表現のあり方を探ります。
New Tools and Methods for Embodiment Design
個人データのプライバシー消失や、ビッグデータによる社会行動の操作など、データ、特に大量のビッグデータというと、今日なにやらネガティヴなイメージがつきまとってくる。しかし、4K/8K画像のような超高解像度のディスプレイ、ハイスピードカメラのようめの、汎用ツールとしてのデータロガーを開発する。な超高速フレームレートの映像、ハイレゾ、マルチチャンネルの音響システム、巨大なオンラインデータベースとその機械学習ツールなど、大量・高速のデータとその処理システムが、新たな知覚と体験、そして思考の場を生み出していることも、その一方で確かである。このプロジェクトは、そうした身の回りに遍在する大量のデータをDIY/ハンドメイドで取得することで得られる「パーソナル・ビッグデータ」の意味や可能性を探究するたさらにこのツールを、深海から宇宙、生物から機械まで、さまざまな自然および人工極限環境の中で使用することで、知覚化する以前のレベルにおけるデータ美学、さらにはその見えない美学の視覚化(visualization)や知覚化(perceptualization)、物質化(materialization)や空間化(spatialization)の実験を行うことで、大量データを身体化(embodiment)するための、新たな方法を創作する。
New Art Experiments in between City and Nature
COVID-19の感染拡大を受け、世界的に文化活動が停滞している。SIAF2020も中止となった今、札幌においても美術館やコンサート・ホールといった屋内施設における安全な作品展示・鑑賞方法を探るだけでなく、社会的距離を保って行われる新たな芸術活動の可能性を探ることが必要である。COVID-19については未だ明らかでないにしろ、SARS、MERSウイルスが野生動物由来であること、また、それら自然宿主と人間の距離が縮まっていることが人間への感染の要因であることを知ると、SIAFのテーマが「都市と自然」だったことが思い出される。このプロジェクトでは、ヒグマや積雪といった野生動物や自然現象と向き合ってきた歴史を持ちながら、メディア・アーツ都市でもある札幌という特殊な都市において、広大かつ過酷な自然/都市環境における、マン=ネイチャー・インターフェイスとしてのフィールド・データ・ロギングとそのヴィジュアリゼーションを通して、「都市」と「自然」各々のあり方を深く知ると同時に、ポストパンデミック時代における新たな芸術表現のあり方を探る。
SIAFラボとは
SIAFラボは、2015年に札幌国際芸術祭(略称:SIAF)を支える文化の土壌作りを目指し、札幌市資料館のSIAFラウンジとプロジェクトルームを拠点に、市民に開かれた芸術関連のレクチャー・シリーズなどの人材育成プログラムなどさまざまな市民協働型のプロジェクトを行ってきました。
2017年以降は、アーティストの立場に立って実際に作品制作・展示や公演を行うアート・プロジェクト、北国・札幌の暮らしの中での可能性を模索する研究開発(R&D)プロジェクト、人材育成・発掘の3本を柱として活動しています。
SIAFラボは、札幌特有の自然環境や社会機能をメディアとして捉え直し、市民とともに、新たな発見や創造を生む場として機能することを目指します。